『オーバーライト ――ブリストルのゴースト』

『オーバーライト ――ブリストルのゴースト』

 著者:池田明季哉 イラスト:みれあ 

 ☆3.8(謎の数字) PV見ました+500000000

 

 第26回電撃小説大賞《選考委員奨励賞》受賞作、なんとも不運なことにコロナ吹き荒れるこの情勢の中でのデビュー作発売。著者は不安もあるのか、購入報告にまで逐一リプライを飛ばしたりと、積極的にアピールしている姿を見かけた。目を惹くカバーデザイン、グラフィティというラノベに限らず珍しい題材で、発売前の時点である程度話題になっていたが、果たして。

 カバーデザインは、なんとカバーのそで両端までのダイナミックな一枚絵で描かれている。実際のカバーでは、そでにあらすじ、著者近影、背表紙のデザインが入ってしまっているが、自分の購入したブックウォーカー版ではそれらを消去したイラストも収録されていた。角川ラノベの電子版は、ブックウォーカーが卸しているから他サイトでも収録されていそう。紙にはあるのだろうか。

 

 イギリスのブリストルに留学中の主人公は、バイト先の店頭に落書きを見つける。それがグラフィティ。スプレーやペンを使って壁などに書かれたアートだ。妙にグラフィティに詳しい美人の先輩と共に、犯人探しへ乗り出す主人公たち。それをきっかけに様々なグラフィティライターと出会い理解を深めるうちに、街は巨大な陰謀に巻き込まれて──。グラフィティライターの誇りをかけた、魂の行方を追求する戦いの話。

 

 かっけえ。タイトルにもなっているグラフィティのオーバーライト文化(既にあるグラフィティに上書きするときはより優れた作品を書く)の持つ普遍性が、主人公らに、そして読者に気づきを与えてくれる。オーバーライトの末に書かれたこの小説が、また読者の心もオーバーライトしていく。オーバーライトの波及を体感させてくれる、パワー溢れる作品だった。